2017.06.02　学術シンポジウム〜脾（胃腸）と免疫〜／身近な便秘から胃がん再発防止にいたるまで

先週の日曜日に東京へ中医学（中国伝統医学）の学術シンポジウムに行ってまいりました。

今回はゲスト講演として本場中国より劉瀋林教授をお招きして「脾（胃腸）と免疫」について拝聴してきました。

劉氏の勤める南京中医薬大学付属病院は病床数２５００床、年間外来患者数４８０万人に及び、中国全土においても規模が大きく、その為その学術レベルと臨床データ数が非常に高い中医（漢方専門）病院と云えます。
同氏はそこで４０年以上勤務され、現在でも週４日の出勤で年間１万人近いの外来患者を診察されています。

今回のテーマであった「脾（胃腸）」に関しては、中医師（漢方専門の医師）になる上で中医臨床学科の基礎科目となっており、脾胃学説はとても重要なところに位置づけられてます。実際に、脾胃科は中医婦人科と同様にとても患者数が多く、治療効果の高い分野として本場中国でも大変重要視されています。


講演内容は身近な便秘、下痢、食欲不振、胃痛、腹痛、頻発する口内炎から小児発育不良、潰瘍性大腸炎、萎縮性胃炎、原因不明の長く続く発熱、胃がん患者における再発防止などの重篤なものまで多岐に渡りました。
中でも胃がんの再発防止に関する最新のデータは非常に興味深いものでした。
２０１１〜１６年の間、同病院で５００人の胃がん患者を対象に術後（科学療法）のうち２４０人を対象に科学治療＋健脾剤（胃腸強化を目的とした漢方）を加えたコントロール群と比較した場合、服用開始２〜４年間毎年１０％以上（毎年数値が上昇し効果が高かった）の患者が再発しなかったという発表があり、胃腸強化の重要性を再認識させられました。

よく日本の病院でガンと漢方を結びつけた場合、補中益気湯や十全大補湯などがよく上げられます。
胃腸薬といっても、理中丸、六君子湯、香砂六君子湯、参苓白朮散、逍遥散、加味逍遥散、帰脾湯、加味帰脾湯、半夏瀉心湯、麻子仁丸、焦三仙など胃腸に作用し元気にさせるものは数限りなく存在し、その人の体質に合った良い処方をしっかりと選択し、長く服用し続けることが大切です。

また同氏は最近我々もよく耳にする「腸内フローラ（中国語では腸内細菌叢）」にも触れられ、健脾作用を高めることでその相乗効果についても言及されていました。
腸内フローラは免疫作用にも深い関わりを持つことから、先ほどのガン再発防止についても十分関係性が深いといえますね。

脾胃（胃腸）は東洋医学の世界で『後天の本』といい、生まれてからその人の身体や内臓を支えるエネルギー工場の役割を果たします。
人は目に見えやすい衰えや老化に関してはすぐに手当てしようとしますが、内臓の機能低下は一見分かりにくいものです。
ちょっと食欲がでないとか、元気がないといった程度ではその症状を置き去りにしまいがちです。ある程度の年齢がいった時点で、特に胃腸に関しては男女問わず幅広い方々に服用していただくと老後のQOL（生活の質）に手助けしてくれること間違いありません。

「２０〜３０代まではまったく胃もたれなんかしなかったのに、最近は。。。」という方でも脾虚の表れです。
気軽に健脾（胃腸強化）をして日常の体質向上をしてみてはいかがでしょうか。