2017.10.14　腎臓が寿命を決める／肝「腎」（かんじん）要の腎臓

10月1日のNHKスペシャル番組「人体」において、現代科学の新たな研究成果が紹介されていました。

テーマは「腎臓」

最新の研究を元に紹介されていた人体感が、２千年以上続く中医学の整体観念（せいたいかんねん）とあまりに共通することが多く、とても興味深かったのでその内容をご紹介します。

◎脳だけではない！腎臓が全身の司令塔、臓器のさまざまな働きをコントロールしている

一般に人間の身体は脳がすべてをコントロールしているように思われがちですが、全身に流れる１０万�qにも及ぶ血管網の中でも一番密な場所が腎臓であり、その血管を通じて他臓器へとメッセージ物質を１番発信しているのが腎臓だということが分かってきたそうです。中医学では『腎は脳に通じる』とあり、脳は腎の支配下にあるような捉え方をします。脳以上に様々な指令役を担う腎臓は全身の管理者と言っても過言ではありません。

１）腎臓は全身の酸素濃度をコントロール／
『腎は納気（のうき）を主る＋腎は骨を主り、髄を生じ、血を生じる』

東洋医学では呼吸は「肺」「腎」で行うと考えます。肺で取り込んだ気（主気／しゅき）を腎に納める（納気／のうき）ことで正常な呼吸活動ができると考えます。
「腎」で呼吸というとあまりイメージが沸きにくいですが、腎臓では体内の酸素濃度が減るとエリスロポエチン（EPO）という造血ホルモンが骨に送られ、骨の中の骨髄で赤血球が増産されます。その増産された赤血球が酸素を運び、全身へと行き渡らせます。
腎臓は造血機能を高めることで肺から得た酸素をより隅々まで運びやすくする機能が備わっているのです。
番組内では触れてませんが、腎臓からは活性型ビタミンDという骨を丈夫にするホルモンも分泌しています。骨・髄を強化して、血液産生を促す腎臓の働きは中医学の『腎は骨を主り、髄を生じ、血を生じる』という考え方に置き換えられると言えます。

２）腎臓は血液の管理者、１日１８０ℓの尿を作り出す！／
『腎は精を蔵し、血を生じる（精血同源）。腎は水液（濾過と再吸収）を主る』

腎臓は血液のすべてを取り仕切ると考えられており、心臓は血液全体の１／４もの量を腎臓に送っています。送られた血液は糸球体で濾過をされながら１日１８０ℓもの原尿が作られ、そこから必要な物質の再吸収と老廃物の排泄を繰り返し、２４時間働き続けます。
体内の血液成分の調整や、造血ホルモンの分泌促進など、腎臓は血液の全てを管理するとても重要な役割を担っています。


３）腎臓が寿命を決める／『腎は生長・発育・老化を司る』

最新の研究では体内のリンの量で老化が早まると考えられています。リンが多いと骨粗鬆症や、血管内の石灰化による動脈硬化が促進し、老化を招きます。
腎臓が元気で、血中のリンを上手に調整すれば老化を抑制できるということがハッキリと分かってきたようです。

４）腎臓は生命のコントローラー／『腎は「先天の本」、他の臓器の「陰陽の源」』

現在、先進諸国の入院患者の５人に１人が急性腎障害を起こしている実態が明らかになりました。
全身をコントロールする要である腎臓は、腎臓以外の臓器の悪化が端を発して、腎臓自体も悪化に陥り、それがさらにまた別の臓器の悪化にまで及び、臓器全体が機能不全を起こし死に至るケースが非常に多くなっているそうです。

この臓器の関係性は「心腎連関」「肝腎連関」「肺腎連関」「脳腎連関」「腸腎連関」「骨腎連関」と呼び、中医学での「心腎相交」「肝腎同源」「腎は骨を主り、髄を生じ、腎は脳に通じる」「脾（消化）は後天の本、腎は先天の本」「肺は気の主、腎は気の根」「腎は陰陽の根源」などの観点ととても類似します。
また冒頭にも触れた中医学の整体観念とは、人の身体は臓器や器官がそれぞれ違った働きをしながらも、お互いに関係しあって「切り離せない一つのもの」と考えられています。腎臓は他の臓器と密に連携しながら身体を支え合っていることは正にこの中医学の根源である整体観念に精通すると言えます。

放送の中でiPS細胞の研究で知られる山中教授は、


『「肝心」という言葉は元々「肝腎」だった』

『胃は痛いとサインを出すが、腎臓は他の臓器と違って我慢強い、
だからこそ大事にして欲しい』

と語っていました。

今回の放送で腎が身体の「要」であるいうことが西洋医学の分野でもしっかり認識され、はるか昔から続く中医学の生理観と今後もっと交わっていけるのではないかという期待観をとても感じさせてくれる、とても素晴らしい内容の番組でした。
西洋医学の観点を通して、自分の中でより一層中医学に対する思いが高まったところで、明日から中国・武漢へと研修に行ってきます。とても良い弾みになりました。